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盛岡地方裁判所 昭和28年(行)17号 判決

原告 滝口清十郎

被告 岩手県知事

一、主  文

被告が昭和二十三年九月十日附岩手と第九六四号買収令書をもつて岩手県九戸郡種市町第三十九地割八番の一字角川目山林十町九反五畝八歩のうち五町五反歩についてなした買収処分の無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、請求の趣旨記載の山林十町九反五畝八歩は原告の所有であるところ、昭和二十三年一月二十日岩手県農地委員会はそのうちの五町五反歩につき旧自作農創設特別措置法第三十一条による未墾地買収計画を定め、同年二月六日その旨の公告をなし、同日より二十日間書類を縦覧に供したが、これに対し異議訴願がなかつたので、被告は所定の承認手続を経たうえ請求の趣旨記載の買収令書を発行し、同年十月二十一日該令書を原告に交付した。しかしながら

(一)  右買収にかかる山林五町五反歩のうち約一町三反歩は昭和二十一年春原告より大村丑松、高橋豊美、村山市太郎、滝口敬三、滝口三郎、大村徳七郎、高橋清吉、村上一蔵及び高橋勇吉の九名に貸与すると同時に、同人等がこれを開墾し、直ちに耕作を開始したところであつて、右買収計画樹立当時は明らかに既墾地であつたものである。ところが前記買収手続においてはこの地域をも含めて前記五町五反歩を未墾地として計画に組入れ、買収したのであるから前記買収処分はこの点において重大な過誤を犯したものとして法律上当然無効である。

(二)  また前記買収手続の目的たる土地は前述のとおり前記山林十町九反五畝八歩の一部五町五反歩であるところ、買収手続においては買収地域の表示として前記八番の一字角川目山林十町九反五畝八歩のうち五町五反歩と記載したのみであり、その地域の範囲を現地において境界を指示する等により特定しないのみならず、買収手続においても、図面の添付等によつて明確にしておらないから、前記買収処分はこの点においても重大な過誤を犯したものとして法律上当然無効である。

よつてその無効確認を求めるため本訴に及ぶと陳述した(立証省略)。

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告主張の事実のうち、原告主張の山林十町九反五畝八歩が原告の所有であること及びそのうち五町五反歩についての買収手続関係が原告主張のとおりであることは認める。また買収処分の無効理由(一)の点について、買収地域中に約一町三反歩の新開墾地があることは認めるが、その開墾の経緯は知らない。その余は否認する。右開墾地は前記買収計画当時未だ農地とは認められなかつたので、これをも含む前記山林五町五反歩を未墾地として買収したのである。同(二)の点について、買収手続における買収地域の表示が原告主張のとおりであり、該地域の範囲を明らかにするため特に境界の指示、あるいは図面の添附等をもなさなかつたことは認めるが、その余は否認する。ただし前記山林十町九反五畝八歩のうち買収にかかる五町五反歩の地域と買収にかからないその余の地域との境はその約三分の一が窪地あるいは湿地であつてはつきりしているが、その他においては自然の境界をなすものはない。以上の次第で原告の請求は失当であると陳述した(立証省略)。

三、理  由

原告主張の山林十町九反五畝八歩が原告の所有であること及びそのうちの五町五反歩につき岩手県農地委員会が原告主張のとおり未墾地買収計画を立て、その旨の公告及び書類の縦覧手続をなし、被告が所定の承認手続を経たうえ右買収計画に基いて原告主張の買収令書を発行し、これを原告主張の日に原告に交付したことは当事者間に争がない。

よつて先ず原告が右買収処分の無効理由としてあげる(一)の点について按ずるに、右買収にかかる山林五町五反歩中に約一町三反歩の開墾地があることは当事者間に争がなく、証人大村丑松の証言によれば右約一町三反歩は原告主張の大村丑松外八名が昭和二十一年春原告より借り受け、当時山林であつたのを直ちに開墾に着手し、その年から粟、豆等の作づけをしたものであること、その後毎年これに稗、麦、豆等を蒔き、耕作者に多少の出入りがあつたが、いずれも相当の収穫をあげ今日に至つていること及び従つて同地域は昭和二十三年頃には既に完全な畑地となつていたことを認めることができる。それなら右約一町三反歩の山林は右買収計画当時既に農地となつていたわけであるから、買収機関がこの地域を含む前示五町五反歩全部を未墾地として買収したのは買収地域の約四分の一にあたる部分の現況を誤認したものであつて、本件買収手続はこの点において重大な瑕疵があるものといわなければならない。しかも右約一町三反歩の山林に関する前記認定の事実関係によれば、同地域が本件買収計画当時一見して明瞭な熟畑であつたのであるから、前述のとおりこれを未墾地と誤認したことによる瑕疵は明白なものというべきである。しからばかような瑕疵を蔵する買収手続によつた本件買収処分はこの約一町三反歩の範囲において法律上当然無効のものといわなければならない。

次に同じく(二)の点について按ずるに、本件買収手続における買収地域の表示が原告主張のとおりであり、該地域の範囲を明らかにするため特に境界の指示あるいは図面の添附等をなさなかつたことは被告の認めるところであり、また前示山林十町九反五畝八歩のうち買収にかかる五町五反歩の地域と買収にかからないその余の地域との境界には、その約三分の一に窪地あるいは湿地があるほか自然的にもこれを明確にするものがないことも被告の自認するところであるから、反証のない限り(乙第一号証の右買収地域実測図面はその記載自体より本件買収処分後の測量にかかるものであること明らかであつて、右の点の資料となし得ない)前示買収にかかる山林五町五反歩は買収手続においては勿論のこと、現地における何処の五町五反歩であるかも特定されておらなかつたものと観るほかはない。ところで旧自作農創設特別措置法による買収手続において買収の目的たる土地の特定は、買収の時期にその所有権が政府に帰属すべき土地を確定する上において必要欠くべからざるものであるから、本件買収手続は前示買収山林を手続上のみならず客観的にも特定しない点において重大でしかも明白な瑕疵があるものといわなければならない。それならかような瑕疵を蔵する買収手続によつた本件買収処分はこの点において、全部、法律上当然無効のものといわなければならない。

しかして本件買収処分が前示のように存在する以上、原告においてこれが無効の即時確認を求める利益があるものと解すべきである。

よつて原告の請求は理由があるからこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)

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